『 Au Revoir
― また 逢う日に ― (2) 』
コツ コツ コツ ・・・ タタタ ・・・ タタ
大きなバッグを抱えて アパルトマンの階段を駆け下りる。
「 いっけな〜〜い ・・・ のんびりし過ぎたわあ 〜〜 」
フランソワーズは 小走りに建物の外に出た。
「 う〜〜 メトロに乗ってもな〜〜 あまり便利じゃないし・・・
走って行った方が早いわね ! 」
カン。 カン カン ・・・ 靴のカカトを鳴らし 彼女は駆けだした。
ス −−− ・・・ !
駆けだしたばかりの彼女の横を 黒い乗用車が追いこした。
「 ・・・ !!! 」
瞬間、足が凍りついた。 恐怖の衝撃が全身を貫き 彼女は舗道に座り込んでしまった。
!!!! ・・・ こわい っ !!!
目の前は真っ暗になり 全身から冷や汗が吹き出て文字通り凍り付いた。
「 マドモアゼル? 大丈夫? 」
・・・ 中年の女性の声がして 柔らかい手がそっと肩に触れた。
「 ・・・ あ ・・・ 」
「 どうしたの? 貧血? お家はどちら? 」
「 ・・・ あ ・・・ ああ ・・・ だ 大丈夫 です ・・・ 」
「 そう? 真っ青よ 」
「 ・・・ あ ありがとうございました・・・ はい 平気です ・・・
ちょっと 眩暈が ・・・ 」
「 あら オンナノコの日 かしら? どうぞお大事にね 」
「 ありがとうございました。 」
にっこり笑って立ち去るその女性に フランソワーズは深々とアタマを下げていた。
・・・ やだ ・・・ わたしったら ・・・
朝の時間 行き交う人も車も少ないわけなく 先ほどのクルマもとっくに影もカタチも
見えない。 単なる通りすがりのクルマだったのだろう。
「 ・・・ 気にし過ぎよ、フランソワーズ ・・・ もう 終わったコトだわ。
わたしは ― わたし達は 完全に自由になったの。 ええ そうよ! 」
道に置いてしまったバッグをゆっくり持ち上げる。
「 あ いっけない・・・ レッスン〜〜〜〜 !! 」
しっかりバッグを抱えなおすと 彼女は猛然と駆けだした。
加速そ〜〜〜ち!! って わたしもやってみたい〜〜〜〜〜
カタカタカタ 〜〜〜 ・・・・ 靴音を響かせ彼女はかなり本気で駆けだした。
「 ぼんじゅ〜る! 」
「 ・・・? フランソワーズ・・・ ボンジュール 」
バレエ・スタジオの更衣室に飛び込んだのは かなりぎりぎりタイムだった。
「 ぁ〜〜〜 間に合ったぁ〜〜〜 」
「 え ああ そう? 」
「 はあ 〜〜 あ 急いで着替えなくちゃ ・・ ! 」
慌てている彼女にちら・・・っと視線を投げただけで 少し年上のダンサーは
更衣室を出ていった。
「 ・・・ ふう ・・・ ! のんびりしているヒマ ないのよ〜〜〜 」
フランソワーズはどたばた着替え、髪を結い 荷物を抱えこんでスタジオに飛んでいった。
「 ・・・おはよう〜ござ・・・ いえ ぼんじゅ〜〜る? 」
途中から声を落とし、 彼女はスタジオの隅っこの方のバーについた。
「 あ ・・・ ここ いいですか? 」
「 どうぞ? 」
「 メルシ・・・ えっと ジョゼ ・・・ 」
同年輩と思える彼女は にこ・・・っと笑顔を返してくれた。
「 はあ〜〜 なんとか間に合ったわ ・・・ 」
「 ? まだムッシュウは来ないと思うけど? 」
「 え ・・・ でも 時間でしょ 」
「 べつにいいんじゃない? バーが始まるまでに来てれば・・・
ね〜 フランソワーズっていつもニコニコしてるのね 」
「 え そ そう? 」
「 うん。 ねえ ねえ オハヨウ って なあに? 」
「 え?? 」
「 クラスの始めにさ〜〜 フランソワーズ よく言うじゃん? あれ なに。 」
「 あ ・・・ その ・・・ 朝の挨拶 ・・・ 」
「 へ〜〜?? 何語? 」
「 あ の ・・ 知らないと思うけど ・・・ 日本語 ・・・ 」
「 え!! く〜〜〜る!!! でも ニホンゴの挨拶は コンニチワ でしょ? 」
「 あ のね ・・・朝は オハヨウございます なの。 」
「 ふ〜〜〜ん? < お あよう > ? 」
「 お は よ う。 おはようございます の短縮版よ 」
「 ・・・ お あよう?? う〜〜ん ムズカシイのねえ ・・・
どうして知ってるの? 」
「 あ あの わたし ・・・ つい最近まで日本にいたの ・・・ 」
「 へ〜〜〜〜 すご〜〜〜 トウキョウ? 」
「 え ええ 東京に近いトコに住んでいたの。 」
「 へ〜〜〜〜 すご〜〜〜 」
( いらぬ注 : 仏語圏のヒトは H(は行) の発音が苦手 )
「 ねえ ねえ ティッシュ〜 持ってる? 」
反対隣の赤毛の娘が 声をかけてきた。
「 ティッシュ? え〜〜と ・・・ あ どうぞ 」
フランソワーズは バッグの中から入れっぱなしになっていたポケット・ティッシュを渡した。
「 あ・・・ 一枚でいいの 」
「 いいわ これ全部 どうぞ? 」
「 メルシ。 わお〜〜〜 これって キティちゃん〜〜〜??? 」
赤毛っ子は歓声を上げた。
「 え ・・・? あ ・・・渋谷で 道でもらったヤツだわ ・・・
忘れてた ・・・ 」
「 きゅ〜〜〜と(^^♪ ねえ 本当にもらっていいの?
高かったでしょう?? 使っちゃっていいのかなあ〜〜〜 」
「 あの ・・・ それ。 道でもらったから・・・ どうぞ 」
「 へえ??? どこ どこ どこで?? 」
「 あ ・・・ 」
「 シシ〜 彼女さ トウキョウに住んでたんだって。 」
ジョゼが 説明をしてくれた。
「 え〜〜〜〜〜 トウキョウ?? あきあばら?? 」
「 え いえ 違うの ・・・ あ ほら〜〜 ムッシュウ いらしたわよ? 」
「 あ〜〜〜〜 ・・・ 」
トン。 中年っぽい男性が颯爽と入ってきた。
「 ボンジュール ピエール 」
彼はまず 古ぼけたオルガン??の前に座っていた白髪の老人に声をかけた。
〜〜〜〜♪ ♪♪
老ピアニスト氏の手にかかると 古いオルガンは信じられないほどの円やかで
洗練された音を奏でるのだった。
「 あ・・・ セカンド・ポジション 〜〜〜 」
ざ ・・・・ ダンサーたちはさっと立ち上がりバーにつき −−−
朝のクラスが始まった。
ふう ・・・ あは。 なんか ・・・
「 おはよう! はじめますよ ! 」 のマダムの声が
懐かしいわあ ・・・
ちりり。 フランソワーズの胸の奥が傷んだ。
「 いっけない ・・・ 集中してないと! うふ・・・
マダムだったら早速 『 フランソワーズ! 昨夜はデートだったの? 』
な〜〜んて言われちゃうわね〜〜 」
慣れ親しんだはずの、故郷の街 ― 場所は違うけど 馴染みな世界・・・
スタジオの中には 母国語だけがあふれ、仲間も指導者もほとんどが
自分と同じ国のニンゲン ・・・
緊張するはずのモノはな〜〜〜にもない、心やすまるはずの環境 ― なのに。
わたし。 ・・・ 淋しい ・・・ のかな。
もしかして ― 戻りたい のかしら。
黒髪の同僚たちの 少々堅苦しいがきちっきちっとしたあの環境が ― 懐かしいのだ。
「 次! ・・・ ?? 」
「 ! ぱるどん! 」
自分の番が回ってきていた。 彼女は慌ててセンターに歩みでた。
集中よ! フランソワーズ !!!
滑らかなワルツの調べにのり ― 金髪だの赤毛だのブルネットだののダンサーたちは
くるくる ・・・ 踊りはじめた。
汗は ― 偉大だ。
わだかまっているモノ や ずっと抱えているモノ など 全て流してしまう。
「 はあ〜〜〜〜 ・・・ つっかれた〜〜〜 」
拍手とレヴぇランスでクラスが終わると ダンサーたちはてんでに散ってゆく。
「 フランソワーズ〜〜〜〜 ねえ ねえ トウキョウのこと、おしえて!
私ね〜〜〜 次の夏のバカンスに行きたいの! 」
クラスが終わって ほっとしていると、 例の赤毛のシシーが飛んできた。
「 まあ シシー。 あの・・・ 東京の夏はとても暑いのよ・・・
春とか秋の方が ・・・・ 」
「 ノン ノン! 私 こみけ に行くのよ! 」
「 こみけ???
それ どこ? 」
「 え〜〜〜〜 知らないの??? びっぐさいと の こみけ よ 」
「 びっぐさいと? ・・・ ああ あの大きな展示場ね
まああそこに 行きたいの? 」
「 フランソワーズ。 本当にトウキョウに住んでいたの??
こみけ は二ホン最大のイベント! って をたくほん に書いてあったわ。 」
「 ??? おたくほん ?? 住宅情報誌?? 」
「 ・・・ フランソワーズ。 このコ、 くーる・じゃぱん フリークだから 」
ジョゼが肩を竦めている。
「 くーる じゃぱん・・・ ああ! そんなことニュースで聞いたわ。 」
「 も〜ね アニメとかまんがに夢中なんだって。 」
「 ああ ・・・ そういうヒトたちのこと オタク って呼ぶみたいね 」
「 そう! 私 オタク に憧れているのよ! 」
「 ふ〜〜〜ん? どこかのカンパニーのオーデイションにパスする方だ
先だと思うけど〜〜 」
「 もちろんよ。 私 トウキョウでもちゃんとレッスンするわ。
ねえ フランソワーズ、 オープン・クラスって トウキョウにもあるでしょ? 」
「 え ええ 多分 ・・・ ネットで検索できるはずよ 」
「 そうね! ニッポンのオタク友達にも聞いてみるね 」
「 わたしが通っていたところは ・・・ オープン・クラスはなかったけど・・・
でも スタジオはたくさんあるみたいよ 」
「 そうなの〜〜〜 メルシ〜〜〜 フランソワーズ〜〜 」
「 日本は安全で暮らしやすいわ。 旅行も安心よ 」
「 そうなの〜〜〜 フランソワ―ズ、カレシは日本人 ? 」
「 え??? な なんで ・・・ 」
「 だってずっと日本にいたのでしょ? 」
「 え ええ ・・・ 」
「 カレシ と一緒だったんじゃないのぉ〜〜 」
「 え ・・・ わたし達 そういうんじゃなくて
」
「 < わたし達 > って♪ まあ早くかえってあげなね〜〜〜
あ トウキョウのこと、また教えてね〜〜 」
ご機嫌ちゃんで手をひらひら振りつつ、シシーは着替えに行ってしまった。
「 賑やかな子だわね 」
「 うふふ・・・でも楽しい人ね 」
「 どうだか。 お気楽なのよ。 じゃね また明日 」
「 あ ええ また明日ね 」
a demain ( また明日 )・・・ か
カレシ かあ ・・・
うふ ・・・ どうしているかな ・・・
心の中に ぱあ〜〜っと。 大地の色、温かい光いっぱいの瞳が浮かんできた。
いつでも 笑いかけてくれるセピアの目。
もしかしたら 彼はいつでも彼女のココロの中で笑顔を湛えているのかもしれない。
「 ・・・ 会いたい ・・・ のかな わたし。
あの 海辺のお家に ・・・ 帰りたい のかな ・・・。
よく わかんないわ。 だってわたし。 この街が お兄ちゃんとのお家が、この暮らしが
大好きなんだもの。 わたしは ―
」
ふうう ― 大きくため息をつくと 彼女も荷物をまとめて更衣室に向かった。
カサ ・・・ カサ カサ ・・・
外にでると 微かな音が耳に飛び込んできた。
「 ?? なあに ・・・? なんの 音 ・・・? 」
きょろきょろ 辺りを見回す。 ゆったりと行き交う人々はごく自然にそんな
彼女を避けてゆく ― しかし降り返ったりはしない。
「 ・・・ 道の両側から 聞こえる・・・みたいなんだけど ・・・ 」
あ。
昨日までいくらか青味を残していたマロニエの葉が ― 黄金色に変わっていた。
「 ・・・・ ! 」
フランソワーズは 街路樹を熱心に見つめ続けていたが すっと道端に屈みこんだ。
「 キレイ ・・・ ! 」
石畳の道に 数枚黄金色の葉が落ちていた。
爆走したトラックの風にでも煽られたのかもしれない。
「 まだ踏まれていないわ ・・・ 栞にでもしようかな 」
彼女は落ち葉に 手を伸ばした。
「 あ そのままでいて ・・・ もうちょっとだけ! 」
不意にアタマの上から声が降ってきた。
「 ?? え??? 」
彼女が驚いて顔を上げると ― 黒髪の青年がスケッチブックを手に立っていた。
「 あ あの? 」
「 あ すいません〜〜〜 あの ・・・ アナタをデッサンしていたんで ・・・
・・・ 無断でごめんなさい ! 」
彼は スケッチブックを抱えてまま ぺこん、とアタマをさげた。
あら。 このヒトの発音 ・・・ ジョーと似てるわ ね?
フランソワーズは 目をぱちぱちさせていたが くす・・・・っと笑ってしまった。
「 あ ・・・ あの〜 すいませんでした! 僕 なんかヘンなこと、言いました? 」
「 え ・・・ いいえ そんなことないわ。
ただ あなたの発音がね わたしの友達とよく似ていたので ・・・
ねえ もしかして ― ジャポネ ? 」
「 え あ は はい! ボクハ ニホンジンデス。 トウキョウカラ キマシタ 」
会話集の例文みたいな < 文章 > を 黒髪の青年は発音した。
「 やっぱり! わたしの友達も日本人なの。 わたしもね つい・・・この前まで
日本に住んでいたのよ 」
「 え〜〜〜〜 そうなんだ〜〜〜 あ ・・・ 」
彼は思わずこぼれてしまった母国語に 口を押さえた。
「 ぱるどん。 ヘンなこと、言って・・・ 」
「 うふふ ・・・ わかっちゃったわよ? アナタ、フランス語、なかなか上手よ 」
フランソワーズは 日本語に切り替えた。
「 わ ・・ あ ありがとうございます〜〜
聞きとることはできるようになったんですけど ・・・ おしゃべりがなかなか・・・ 」
「 ほらほら ちゃんと話しているじゃない? 」
「 え ・・・ あ ・・・ 」
金髪碧眼の彼女は 日本語、 黒髪に茶色の瞳の彼は フランス語 で < 会話 >
しているのだ。
「 あ ・・・ は。 なんかヘンですねえ 」
「 うふふ ・・・ じゃあ わたしの国のコトバでゆっくり話すわね? 」
「 ありがとうございます! あ 〜 勝手にデッサンしてすみません。 」
「 別に構わないけど ・・・ 見ても いいですか? 」
「 え・・・ 練習だから 上手くないですけど ・・・ 」
「 見せて 〜〜 」
「 どうぞ? 」
青年は はにかみつつスケッチ・ブックを差し出した。
「 メルシ〜〜 ・・・ わあ〜〜〜 わたし、こんなにキレイじゃないわ 」
「 い いえ ・・・ ステキです! この黄色い葉っぱとアナタの横顔・・・
もう最高にぴったり だ 」
「 うふふ ・・・ ありがとう。 上手ですね、美術学校の学生さん?
あ 留学生さんですか? 」
「 あ はい ・・・ もう毎日デッサンの修業中です 」
「 そうなんですか 」
「 あの この黄色い葉っぱ ・・・ なんですか? 」
「 これはマロニエよ。 うふ・・・秋の紅葉は日本の方が素敵だと思うけど? 」
「 え ・・・ でもこの街にはこの色が いい・・ ぴったりだ。 」
青年は 街路樹を見上げている。
「 そう ね。 わたしもそう思うわ。 日本の秋も好きだけど 」
「 それは ― 大切なヒトが いるから ? 」
「 え ・・・? 」
「 あ ごめんなさい ・・・プライベートなこと、聞いて 」
「 ・・・ わたし この街も日本も両方とも好き。 」
フランソワーズは 薄い水色の空を見上げ、その空の彼方に微笑んだ。
そんな彼女を 青年は少し目を細め泣きそうな顔で眺めている。
「 あ すいません、 僕は ― ユウジ といいます。 」
「 わたしは フランソワーズよ 」
「 あ あの。 ま また会ってくれますか? 」
「 − え 」
「 いえ あの! デッサンを 貴女をもっともっと描きたいんです!
あの ・・・ 動いている貴女を ・・・ 」
「 まあ ありがとう。 あのね、 わたし ・・・バレエ・ダンサーなの。
スタジオに来ない? クラス・レッスンならデッサンさせてもらえると思うわ 」
「 ほ 本当ですか!? 」
「 ええ。 スタジオの住所はね ・・・ 」
彼女はメモを渡した。
「 ありがとう!! ・・・ ここに行けば貴女に会えますね、フランソワーズ。」
「 ええ 朝のクラスには大抵参加しているわ。
うふふ・・・わたしより上手でキレイなヒト、いっぱいいるわ。 」
「 いえ。 貴女が一番です。 」
「 え? 」
「 あ ・・・ なんでも ・・・ 引き留めてすいませんでした。 」
彼はまたぺこり、とアタマを下げた。
「 まあ ・・・ そんな。 ステキなデッサン、見せてくださって・・・
ありがとうございました。 じゃ ・・・ 」
「 あ ・・・ それじゃ 」
笑みを残し立ち去る金髪乙女を 青年はじっと見つめている。
カサコソ ・・・ 黄金色の葉が 舗道で揺れていた。
「 博士〜〜 帰りに買い物、スーパーに寄ってきますけど〜〜 なんかあります〜〜 ? 」
ジョーが玄関で声を張り上げている。
「 うお〜〜い ジョー ・・・ イワンのオムツのストックがそろそろアブナイぞ 」
「 あ それなら昨夜 通販で発注しておきました〜〜 え〜と 明後日には
届きま〜す 」
「 お そうか ありがとうよ 」
「 ミルクは ・・・ まだ大丈夫ですよね〜 」
「 うむ 買い置きがあと3缶あったと思うぞ。 」
「 じゃ 夕食の材料くらいでいいですか あ 博士、煙草は 」
「 あ〜 それくらいはワシが自分でゆくよ。 海岸通りの商店街の煙草屋だがな
実はあそこの隠居サンは ワシの師匠なんじゃ 」
「 し 師匠??? 博士の ですか 」
「 左様。 囲碁はコズミ君が師匠じゃが 将棋はな〜 煙草屋の隠居ドノは
めちゃくちゃに強い。 」
「 はあ ・・・ 博士、 将棋もやるんですか 」
「 うむ。 チェスと同じだろう と軽くみておったんだが ・・・
どっこいこちらはやたらと奥が深くてのう・・・ 今 ハマっておるのじゃ 」
「 へえ ・・・ 」
「 そんなワケで 下の商店街までゆくでのう ・・・ ジョー、お前も
なにか買い物があったらワシがすませてくるぞ。 」
「 え〜〜〜 と ? それなら米屋さんに いつもの米、注文してきてくれますか 」
「 お安い御用じゃ。 銘柄とかは 」
「 あ〜 < いつもの > で通じますよ。 博士も顔なじみでしょ? 」
「 おお おお あそこの店はな〜 なかなか面白い。 蜂蜜なんぞもあったな〜
うむ。 あれも買ってこよう。 パンに塗るとウマイぞ。 紅茶に入れてもよいしな 」
「 わ〜〜〜 ウレシイな〜 ありがとうございます〜 博士〜〜〜 」
「 ほらほら・・・ バスに遅れるぞ 」
「 はあい それじゃ ・・・ イッテキマス。 」
「 ほい いっておいで。 」
玄関でジョーを送ると 博士はバス・ルームに直行する。
「 ・・・ ふむ。 洗いあがったな。 この上天気じゃ 昼までに乾くな〜 」
万能洗濯機から洗濯モノを取りだすと 博士は得々と裏庭に出た。
ひゅるん −−−−−
真っ青な空に 透明な風が吹き抜けてゆく。
かんかんな晴れだけれど 大気にも風にも暖気はもう感じられない。
「 ほう ・・・ 気持ちのいい日じゃな ・・・ よっと ・・ 」
博士は大きく伸びをすると ジェロニモ Jr.特製の物干しに 次々と洗濯モノを
乾しはじめた。
「 ・・・ ふむ ・・・ 天日乾しは乾燥機を使うより肌触りがよいな。
ふ ・・・ < お日様の匂い > とフランソワーズが言っとったっけ・・・
― 元気ですごしておるかな ・・・・ 」
ふと裏山に視線を飛ばせば ・・・ 緑に黄色やらオレンジ色が混じり始めていた。
「 おお ・・・ 今年もまた見事な紅葉が見られるかのう ・・・
この地に根付くのもいいかもしれん 」
老科学者は のんびりと深呼吸をすると庭下駄を鳴らし戻っていった。
ひゅるん ・・・ すみっこに顔をだしている彼岸花が 揺れている。
「 ごちそうさまでした。 」
食後、相変わらずジョーは律儀に手を合わせる。
「 ああ・・・ ごちそうさん。 ジョー なかなか料理の腕を上げたな〜 」
博士もつられて手を合わせた。
「 え〜〜 あんまし手の混んだモノは作れないですよ〜〜
フランソワーズの味には まだまだだなあ・・・ 」
「 ふふ これはこれでお前の味 さ。 この地域はほんに美味しい食材が
そろっておるのう・・・・ 」
「 ですね〜〜 海に近くて 畑とかもまだまだ残ってるし・・・
海岸通りの商店街って 今どき貴重ですよ〜〜 あ 煙草 買ってきました? 」
「 おう。 隠居ドノとしっかり一番 指してきた。 」
「 ふふふ ・・・ よかったですね〜〜 」
「 なかなか上達した、とお褒めにあずかったよ。 しかしなあ まだまだじゃ 」
「 へえ〜〜 」
「 うむ 当面の目標ができたな〜 ときにジョー、お前はどうじゃな 」
「 え あは ・・・ バイトはまあまあ ・・・ かな〜
だいぶ慣れてきたけど・・・。 学校は 楽しいです! けど大変です〜 」
ジョ−はバイトしつつ 大学の工学部に聴講生として通っている。
「 理工系なら 苦労せんじゃろう? 」
「 いや〜〜 ・・・ ぼく、基礎的な知識とか欠けてますから ・・
時間ある時には 図書館にこもって勉強してます そうしないと追い付けない 」
「 ふむ? 日本の大学はなかなかレベルが高いのじゃな 」
「 ・・・ いや ぼくが知識不足なんです。 でも ― 勉強 楽しいです!
トモダチもできたし ・・・ 」
「 ほうほう〜〜 それはよかったのう ・・・
ジョー ・・・ ここで生活して よかった ・・・かい? 」
「 はい! ぼく、この家が好きです。 ― 皆がいたらもっといいけど 」
「 皆? ほっほ〜〜 フランソワーズが、 じゃろ? 」
「 え ・・・ あ ・・・ そ そんなこと ・・・・ ある かな ・・・ 」
「 うむ うむ 」
ぱあっと赤くなる純情青年を 博士はニコニコ・・・ 眺めていた。
フランソワーズのいない生活にもなんとか慣れてきた。
今はジョーがギルモア邸を 切り盛りしている。
博士と001とジョーと。 ― オトコ所帯もなかなかいいものだ。
チャイムが鳴って 講義が終わった。
ザワ ザワ がやがや ガタガタ ・・・ 教室は途端に賑やかになった。
「 ふう ・・・ う〜〜ん ちょっと図書館 寄ってゆこうかなあ ・・
予習しとかないと ・・・ う〜〜ん ・・・
」
ジョーはぶつぶつ言いつつ、テキストやノートを閉じた。
学生たちはとっくに散ってゆき 教室に残っているものはほとんどいない。
「 やっぱ専攻課程はムズカシイな 〜〜 う〜〜ん ・・・ 」
「 あの〜〜〜 さっきの講義 ・・・ 1031教室の、出てましたよね? 」
「 − はい? 」
荷物をまとめて教室を出たところで 女子学生に声をかけられた。
Last updated : 10,04,2016.
back / index / next
********** またまた途中ですが
あ は ・・・ どんどんハナシが逸れてきました★
ジョーくん〜〜〜〜 気を付けてくれぇ〜〜
ポケット・テイッシュ云々 は ワタクシの体験談ですにゃ☆